内閣総理大臣鳩山由紀夫様
文部科学大臣川端達夫様
拉致問題担当大臣中井洽様
さる25日、衆議院本会議において、高校授業料無償化法案が審議に入り、その中で鳩山由紀夫首相は朝鮮高校を無償化の対象から外すことに理解を示す発言をされました。私たちは以下の理由により、鳩山首相がこの見解を改め、朝鮮高校を授業無償化の対象とされるように、強く要望いたします。
1)事の起こりは、中井拉致問題担当相が拉致問題を理由に川端文部科学相に朝鮮高校を対象外とするように要請し、川端文科相がそれを受けて直ちに三人の方を選んでこの件の検討に入らせたことにあります。しかし拉致事件あるいは制裁問題と、学校教育を受けている、あるいはこれから受ける生徒たちとは、何の関係もありません。したがって中井拉致問題担当相の行動は教育への不当な政治的干渉となる恐れがあります。その上、この行為自体が、自民党政権下で全く行き詰まった拉致問題解決を一層困難にすることは、目に見えています。
2)在日朝鮮人の子どもたちは、すでに何年も、拉致事件を理由とする悪質ないやがらせ、時には身体的な危害を、受けてきました。このことは次世代の在日朝鮮人の心身を痛めつけるだけでなく、日本国民を、社会的弱者への攻撃を正義と取り違える、低劣な人間に貶めているのです。中井氏はこのような恥ずべき行為を防ぐどころか、政府の側から助長しようとしているようにお見受けします。この動きの延長線上には、日朝間の明るい未来は望みようがありません。
3)鳩山首相もご存じのように、子どもの権利条約はすべての子どもたちをいかなる理由によっても差別せず、平等に教育すべきことを定めています。もし一部の子どもたちが特に不当な扱いを受ければ、他の多くの子どもたちにとっても、人を差別することを良いこととして「教育」されるという、不幸な影響を受けることになります。そうなれば日本の子どもたちは鳩山首相が掲げる「友愛」のなんたるかを解さないで育つでしょう。
4)朝鮮高校の生徒は約半数が韓国籍であると聞いています。今回の朝鮮高校除外の意向は、韓国政府及び国民にも、謂われなき民族差別と受け取られるでしょう。いつも見過ごしにされ、疎外されている少数者に対して取る態度は、民族全体に対しても向けられた態度でもあると見なされ、日韓の関係をも悪化させるでしょう。
鳩山首相、川端文部科学相は、朝鮮高校は国交がない国に属するから、その教育内容を問い合わせできない、と言いますが、それならまず韓国に問い合わせたらいかがですか。また朝鮮高校生に一般の高校生と同じ受験資格を認めているたくさんの大学に問い合わせた
らいかがですか。この点については川端文部科学相もお分かりでしょう。
5)朝鮮学校は日本文部科学省の指導要領に準拠して教育を行っています。その生徒たちは、ほとんどすべて日本に永住するでしょうから、朝鮮学校が日本の公の教育指針を受け入れていることは当然なことと言えます。とはいえ、もちろん朝鮮学校は日本国民を対象とする学校とは異なる文化、言語、理念を持っています。しかしこのことは決して否定的に捉えるべきことではあるません。こ のことは、朝鮮学校が日本の教育、文化を一層豊かにする大切なパートナーであることを意味します。
在日外国人、とくに在日韓国・朝鮮人を排斥する「単一民族」神話、教育行政の中で未だに尾を引いている「皇国臣民」神話は、この国を文化的にも政治的にも孤立に導いてきました。このことは、最近の国連の人種差別撤廃委員会の日本政府批判からも伺えます。
6)幸い私たちの知る限り、日本の国民はこの点に関してはっきり目覚め始めています.だからこそ、政権交代も起こったのです。多文化共生は今日では生活実態であり常識です。朝鮮学校生への嫌がらせが起こると、日本人市民が辻々に立ってこれを防ぐのです。そういうことは誰の指図にもよらず、在日朝鮮人を友達として受け入れる市民の実感から起こるのです。トップの政治家である皆さんが市民の健全な思いやりを理解なさらなければ、市民からも孤立するでしょう。もちろん私たちはそうならないことを心から願っています。川端文部科学相はもとより鳩山首相、中井拉致問題担当相も朝鮮高校を尋ねたら如何か、という声が自民党、民社党内に起こっていると報じれていますが、これが実現すれば韓国、北朝鮮はじめ世界の国と人々の、日本を見る目が温かくなるでしょう。
7)拉致問題を口実に、自国の過去の罪責は頬被りしてただ相手を責め、何年たっても国交交渉を再開することができず、重要な核問題についても話し合えないという状態は、もう抜け出して下さい。この状態こそ、国内外共に最も重大な平和・安全に対する脅威であると思います。日本が過去の過ちを謝罪し、誠意をもって補償に努めれば、その対話の中で拉致問題も解決することができるでしょうし、日韓朝三国の相互理解と信頼が深まり、鳩山首相の言われる「東アジア共同体」への道も開かれて、この地域の非核化も必ず実現されるでしょう。その転換のカギは、在日韓国・朝鮮人に対する施策にある、と私たちは考えています。
お忙しいところ恐縮ですが、ご返答をいただきたく、お待ち申し上げます。
2010年3月1日
日本キリスト教協議会(NCC)
在日外国人人権委員会委員長 麻生和子
NCC総幹事 飯島 信