■□■ NCC 国際エキュメニカル・ニュース 2006.3.8 No.76 ■□■
2006年8月 大河内敏弘
上海からジェットで南西へ1時間。江西省南昌市にある東華理工学院という国立総合大学で日本語を教えていました。2004年夏、日本キリスト教協議会の選考を経て、中国南京に本部を置くキリスト教徒による慈善団体「愛徳基金会」に派遣された次第です。2年の任期中に見聞したわずかな印象をお伝えいたします。
○ 中国の教会
中国のキリスト教は福音主義的な神学による教派的教義のない合同教会で、一般民衆と共存する実践的な奉仕活動を行う教会のようです。教会の数は多くありませんが、訪問した長江沿岸の南京、揚州、南昌、?州(かんしゅう)、新余という人口数百万の都市には、多くの人たちが礼拝を守る教会がありました。カトリック教会は「耶蘇教会」と地図に表示されていますが、プロテスタント教会は表記されていません。しかし表記がなくとも、教会(礼拝堂)は存在しています。プロテスタント教会の建物には、例えば「南昌市基督協会」などと市の名が冠された看板が出ています。「教会」ではなく「協会」となっているのは、プロテスタント教会が「中国基督教三自愛国運動委員会」と「中国基督教協会」に主導されていることによるのでしょうか。
礼拝堂は古めかしくてこじんまりしたものや、新しくて壮大美麗を極めるものなど様ざまです。改革開放政策によって礼拝は盛んになり、一見したところ教会活動はすべて自由であるかのようですが、宗教局の関与などにより、一定の監視下にあると思われます。
工場や学校などには共産党員が委員として配属されています。そして「指導」や「管理・監督」が行われています。教会/協会/礼拝堂も例外ではないのでしょうか。宗教局の役人はキリスト教徒ではありません。「信仰は自由」とは言うものの、布教や宣教には相変わらず大きな制約があることを感じました。
聖日礼拝は盛大です。新余市の1500名収容の大きな礼拝堂では、朝夕2回とも満席です。礼拝の様子は1,2階ぶち抜きの会堂内の隅々にまで、テレビ中継されています。また、南昌市では会衆が礼拝堂に入りきれず、庭に大きなテント屋根を架け渡して参列者を収容しています。5百名程度が雨露をしのぎつつ、朝、昼、夕の3回の礼拝を守っています。冬は凍てつく風が吹き抜け、夏は蒸し風呂状態。テント内は過酷な環境ですが、いつも満席です。参列者は女性が多く、小学生ぐらいの児童も家族と一緒に礼拝しています。
礼拝直前の30分間は賛美歌練習。礼拝次第は日本と変わりません。ただし一斉献金はしません。礼拝堂の入り口付近に箱が据えられていて、思い思いに献金しています。中国語聖書「聖経」や賛美歌は教会での準備もありますが、多くは参列者が持参します。
「週報」のような印刷物は配布されませんので、入り口に掲示されるプログラムを各自がメモして礼拝に臨みます。どちらの教会でも礼拝が終わると日本の童謡唱歌「むすんで ひらいて」が聖歌隊によって、もちろん中国語で歌われます。
礼拝を終えて教会を出ると、そこには物乞の人たちが待ち受けています。身体に障害を持つ人が多く、板に滑車を取り付けただけの小さな台車に身を横たえ、教会には一歩も入り込まず、ひたすら礼拝の終わるのを待ち続けています。中国の貧富格差や厚生行政の問題点を指摘するのは可能かも知れませんが、どうして礼拝堂の中に入らないのか?入れないのか?教会から出てきて物乞いに喜捨する人はどのような感慨をもっているのか?中国の負の現実を見せつけられますが、内実は分からないままでした。
シーズンに入ってもその気配がないので「ペンテコステ」はどうなっているのか、と牧師に質問した日本人がいました。中国人牧師は、その言葉を知らなかったそうです。地元には神学校もあるのに、どうしたことだろうと思っています。
世界で一番有名な老人であるサンタクロースは「聖誕老人」と表記され、中国でも人気を集めています。町の賑わいは、クリスマスが過ぎて旧暦で祝う中国のお正月が終わる2月下旬まで続きます。商店街や百貨店に飾られているサンタもツリーも、その間は出ずっぱりです。ツリーには願い事が記された「絵馬」が吊り下げられています。「聖夜」や「ジングル・ベル」などのクリスマスソングは、年間を通じて折りにふれて各所で放送されています。
○ 愛徳基金会の活動
愛徳基金会は、中国のキリスト教慈善団体で、中国政府公認のNPOです。南京に本部、香港に連絡事務所をおき、中国全土を視野にいれた貧困救済、医療援助、教育支援などの事業を展開しています。例えば、山岳・貧困地区への教会献堂や農村地区の婦人活動指導、集会所建設等をする他、生活改良活動として太陽光を熱エネルギーに転換する装置を設置したりもしています。医療事業では定められた地域へ医師と看護師からなるキャラバンを派遣し、巡回診療やエイズ撲滅活動を行っています。教育事業としては、学校建設はじめ英語、ドイツ語、日本語の教師派遣事業を行っています。派遣先は中国各地に散在しており、2004年には40名ほどが教壇に立っています。日本語教師は4名です(2006年度は1名)。英語やドイツ語教師は米国、カナダ、英国、ドイツをはじめ、北欧やヨーロッパ各国、南アフリカの教会などから派遣された人たちが奉仕しておられます。
愛徳基金会の貴州省での活動を参観する機会があったので、ここに紹介します。
中国の南西部に位置する貴州省は、全省が山に覆われており、交通便が悪く産業の発達も遅れています。生活水準も極端に低く、農村部では年収800元以下です。(ちなみに、上海での大卒初任給は月収1500~2500元程度)。また、この地域には中国56民族のうち12の少数民族が居住しています。最大の少数民族は苗(ミャオ=全国で800~1200万人)族で、その他、イ族やプイ族など聞き慣れない名前の民族が住んでいます。
省都の貴陽市から西へ約300キロ。高速道と地道をバスで4時間ほど走って、さらに山岳地帯に分け入ること2時間。バスを捨てて徒歩40分で安順市普定県猴場郷仙馬村?(や)口寨に到着します。標高1000~1800メートルの急な斜面に点在するこの集落は、隣家を訪ねるにも赤土で滑る急坂を爪先上がりで歩かねばなりません。猫の額ほどの平地もないのですが、村にただ一つある500平方メートルあまりの広場に石造りの教会が建てられています。苗族にはクリスチャンが多いのです。愛徳基金会はこの村の教会建設を支援し、付近の村でも生活改良プロジェクトを実施したり、小学校校舎の建て替え資金を補助したりしています。
貴州省の苗族にキリスト教をもたらせたのは、イギリスの宣教師サムアル・ポラード(Revd Samual Pollard 1864~1915)です。彼は22歳(1886年)で中華基督教循道公会西南地区牧師として雲南、貴州に赴任。51歳で現地で病没するまでの30年近くを牧師、教師、医師として献身しました。その様子は、中国科学院地理科学資源研究所と中国地理学会の共同編集による『中国国家地理』(528号 2004.10発行)という雑誌に特集されています。
彼は文字を持たなかった苗族のために、「苗文字」を考案。文字を教え、キリスト教を広めるための建物を造りました。最初は私塾程度の規模だったものが1912年には男女共学の6年制の「光華小学」としてこの地域最初の公式の学校となったそうです。学校には礼拝堂や教室、男女教員と学生のための寄宿舎をはじめ、プール、グラウンド、食堂、厩舎・豚舎・乳牛舎・養鶏場、給水設備など大小40棟の建物が設けられました。
ポラードはまた、当地に多くいたハンセン病患者を収容し、その治療のための病棟や医療スタッフの宿舎のみならず孤児院もキャンパス内に併設しました。さらに苗文字普及のための教科書『苗文基礎』『苗族原始読本』等を著し、苗文字による聖書、賛美歌の翻訳もしました。スポーツの普及にも力を注ぎ、この学校で行われる運動会には近在から2万人が集まったといいます。なかでもサッカーは強く、その後も発展を続け今日では貴州省サッカー発祥の地と言われています。また、この学校では漢族の教育方法を採り入れて、四川省成都へ留学生を送り出したり、後に博士となる人材を輩出したりしています。
1915年。この地域に腸チフスが蔓延しました。ポラードは診ていた患者や学生から感染したのですが、薬品を全て村民に与えてしまい、ついに帰らぬ人となりました。
いま、貴州省は中国最貧困地区。60%が小学校卒業レベル。30%が文盲。不識字者の69%が女性だそうです。100年前の学校や病院はじめポラードの足跡は、かき消えたように無くなっています。草むすキャンパス跡の一隅に彼の墓石が佇んでいるだけだそうです。
(本稿執筆に際しましては、NCC-J及び愛徳基金会から南昌に日本語教師として派遣されていた堀江咲夫氏、真鍋武氏、藤原薫氏ならびにNCC-J国際エキュメニカルニュースからの談話や情報を引用させていただきました。その都度のお断りはいたしておりませんが、改めて感謝申し上げます。)
※ "The AMITY TEACHERS PROGRAM"
http://www.amityfoundation.org/page.php?page=76
* バックナンバー: http://ncc-j.org/diarypro/diary.cgi?field=7
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